大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成2年(ワ)1196号 判決 1992年11月24日

原告

村山欽一

村山公子

原告ら訴訟代理人弁護士

井上庸夫

鬼丸義生

石橋英之

被告

株式会社富士銀行

右代表者代表取締役

端田泰三

右訴訟代理人弁護士

佐藤安哉

右訴訟復代理人弁護士

有吉二郎

主文

一被告は、原告村山欽一に対し、金二五〇万円及びこれに対する平成二年二月一五日から支払済みまで年2.75パーセントの割合による金員を支払え。

二被告は、原告村山公子に対し、金二五〇万円及びこれに対する平成二年二月一五日から支払済みまで年2.75パーセントの割合による金員を支払え。

三訴訟費用は、被告の負担とする。

四この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一請求の趣旨

主文と同旨

二請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一請求原因

1  平成二年二月一五日、原告村山欽一(以下「原告欽一」という。)、同村山公子(以下「原告公子」という。)は、被告に対し、据置期限同年五月一五日、年利2.75パーセントの約定で、各自二五〇万円の定期預金をした。(以下「本件各定期預金」という。)

2  よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、本件各定期預金二五〇万円及びこれに対する預金日である平成二年二月一五日から支払済みまで年2.75パーセントの割合による約定利息の支払を求める。

二請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実中、原告ら主張の日に原告らそれぞれの名義で原告ら主張の金額及び定めによる定期預金がなされたことは認めるが、本件各定期預金の権利者が原告であることは、否認する。本件各定期預金は、訴外徳川高人(以下「徳川」という。)が、原告らの名義を用いて行ったもので、本件各定期預金の預金者は、徳川である。

三被告の抗弁

1  平成二年二月二一日、徳川と被告との間において、原告らそれぞれの名義の総合口座(以下原告欽一名義の総合口座を「総合口座一」、原告公子名義の総合口座を「総合口座二」という。)を開設する旨及び本件各定期預金を、総合口座取引の規定に従い、各名義人の総合口座当座貸越の担保に供する旨の意思表示がなされ、各総合口座にそれぞれ一〇〇〇円の普通預金をした。

2  総合口座は、普通預金取引に定期預金を担保とする当座貸越契約が付加されたもので、普通預金払戻しのための預金残高が不足する場合、定期預金を担保にして、一定の限度内で不足額相当分の当座貸越が自動的に行われるものである。

3  右各総合口座開設に先立ち、原告らは、徳川に対し、その代理権を与え、徳川は、原告らの代理人として右各総合口座開設等の契約をした。

4  総合口座一から、左のとおり払戻しがなされた。

(一) 平成二年二月二一日

一八八万円

(二) 同年三月七日 一〇万円

合計一九八万円

5  総合口座二から、左のとおり払戻しがなされた。

(一) 平成二年二月二三日

五〇万円

(二) 同年同月二七日

四九万九〇〇〇円

(三) 同年同月二八日 二五万円

(四) 同年三月七日 七〇万円

合計一九四万九〇〇〇万円

6  したがって、本件各定期預金は右各当座貸越債権の担保となっているから、被告は、本件各定期預金の支払に応ずることはできない。

四抗弁に対する原告の認否

抗弁事実中、3の事実は、否認する。その余の事実は知らない。

第三証拠<省略>

理由

一請求原因について

請求原因の事実中、平成二年二月二五日に原告らそれぞれの名義で原告ら主張の各定期預金がなされたことは、当事者間に争いがない。

そして、証人徳川の証言及び原告両名の各本人尋問の結果によれば、本件各定期預金の出資者は原告らであり、徳川が右定期預金のための資金を提供したことはないこと、本件各定期預金の預け入れに際しても、原告公子が徳川とともに被告銀行福岡支店に赴き、同原告において、本件各定期預金の申込書の記入押印をしたこと、が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右判示の事実によれば、原告らは、それぞれのその出捐により、原告らの預金とする意思で本件各定期預金契約をしたものと認められ、本件各定期預金の預金者は、それぞれのその名義人たる原告らというべきである。

被告は、本件各定期預金は徳川が原告両名の名義を用いてなしたものであり、同人の預金に属するものと主張する。

しかし、前記認定のように、本件各定期預金をする際に徳川が同行したことは認められるものの、定期預金の権利者については、自らの出捐により自己の預金とする意思で自ら又は使者、代理人を通じて預金契約をしたものを預金者と認めるのが相当と解せられるところ(最高裁昭和五二年八月九日判決・民集三一巻四号七四二頁参照)、本件各定期預金については、原告らが出捐し、かつ、原告公子が原告らそれぞれの名義の預金申込書を記入して預け入れ手続きをしているのであるから、徳川を本件各定期預金の預金者と解する余地はないものといわねばならない。

二抗弁について

1  その成立の真否はともかくとして<書証番号略>、証人木村孝子、同徳川の各証言によれば、抗弁1の事実を認めることができる。

2  そこで本件各総合口座開設等についての徳川の代理権の有無につき検討する。

徳川は、その証人尋問において、原告ら名義の本件各総合口座の開設及び同口座に伴う当座貸越のための本件各定期預金の担保の差し入れは、徳川が原告らの承諾を得ることなく勝手に行ったものである旨明言しているところである。

また、右総合口座開設等を取り扱った被告銀行の行員である証人木村孝子の証言によっても、総合口座開設の際には、徳川が単身で被告銀行福岡支店を訪れたもので、原告らは来店していないこと、木村は、本件各総合口座開設の六日前の本件各定期預金預入れ時に徳川が来店したことを覚えており、かつ、本件各定期預金預入れ時の届け出印の印影(<書証番号略>)と総合口座開設時に使用された印章の印影(<書証番号略>)とが同一と判断されたため、徳川が本件各定期預金の権利者か否かに格別疑いを抱かず、徳川に対し、本件各定期預金証書の提示やその他代理権の有無を確認する措置をとらなかったこと、が認められる。

右判示の各事情は、本件各総合口座開設等につき、原告らから徳川に対し代理権が与えられていなかったことあるいは被告において代理権確認の措置をとらなかったことをうかがわせるものであり、結局本件において原告から徳川に対し代理権が与えられたことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず、被告の抗弁は採用できない。

三よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言の申立は相当でないから、これを却下する。

(裁判官湯地紘一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例